あれから、I.Nさんとゆうた君とは、友人とやり取りするようなライトな感じでメールのやり取りを行っていた。玄さんから特にメッセージは無く、Takaさんは仕事が忙しいみたいだけれど、時々長文の熱量すごいメッセージをもらっている。
Takaさんとの会話は、基本的に食べる話が多いかな。残業続きでゆっくり時間が取れないから、絶対今後ご飯を食べに行こう、と熱心に誘ってくれている。何時になるか解らないけれどね。
I.Nさんは犬が好きらしく、犬の話題は大変喜んでくれたが、正直そこまで犬好きでなく詳しくないので、話に付いていけない所が多々あった。ゆうたさんとは楽しいメールのやり取りをしている。
――こんばんは、仕事終わり? お疲れ様!(ゆうた)
ゆうた君からのメッセージだった。フランクに話せるゆうた君からのメッセージは、ささくれていた心に温かな灯を点けてくれた。メッセージ、嬉しいな。
ゆうたさんと最初の頃は呼んでいたけれど、年下だから『ゆうたでいいよ』と言ってくれたので、ゆうた君と呼ぶことにした。もともとアウトドアの話が合うので、秘密のキャンプ場や秘密の渓谷の話で盛り上がった。
――ありがと。ゆうた君も仕事終わり?(M)
メッセージを返していると、もう一通メッセージが届いた。こっちはI.Nさんだ。
――お疲れ。今度ドックフェアあるけど行かない?(I.N)
ドッグフェアかぁ・・・・。犬好きの温度差がある事に、I.Nさんは気づいてくれてないのかな。
正直気乗りしないけれど、仲良くなった人の趣味や趣向を理解しようとするのもこちらの努めかと思い、いつ開催されるのか、と返信した。
――イベントは二週間後の日曜日。Mちゃん都合つく? 会おうよ(I.N)
そっか。会うのか。ちょっと緊張するけれど、イベントだったら楽しくデートみたいな事、できるかな?
――いいよ。予定空けておくね。待ち合わせはどうする?(M)
送信の際、ドキドキ。まだ見ぬマッチング相手と、会う事になるなんて。そりゃ、何時かは会うと思うけれど、なんか、キンチョーする!
――近くなったら詳しく決めよう。午前十時から始まるから、現地に九時半くらいがいいかな。後で地図送る(I.N)
早速URLと地図が送られてきた。レイクタウンアウトレットという所で開催されるイベントのようで、場所は埼玉県越谷市。遠っ。
東京都足立区住まいの私。最寄りの江北駅からレイクタウンアウトレットまでの時間を調べると、一時間半ほど。うーん・・・・まさかこんな遠い所へ現地集合で呼ばれるなんて。
こういう所へ行くなら、せめてどこかで待ち合わせして行かないのかな。
なんかもやもやしたけれど、私の心が狭いのかと思い、オーケー、と一言返信した。理世ちゃんに相談してみようかな?
「私だったら絶対に行きませんね」
翌日、理世ちゃんに早速相談したら、そんな遠い所へ呼び出すなんてあり得ない、と憤慨していた。私だけがもやもやしたのではなくて安心。
「ふつうはどこかで待ち合わせしますよ。車持ってないんですかね、その男」
「そうだね」
私もそう思った。やっぱり待ち合わせして行くのが普通だよね。
「あっ、でもやっぱりダメ。いきなり車は危険です! 密室二人きり、何処へ連れて行かれるか解らないですから、用心した方がいいです。遠いけど、電車は正解かも。帰りに車でどうかと言われても、断って下さいね」
そっか! それは考えてなかった!
「成程。理世先生、勉強になります」
理世ちゃんにアプリを通じて出会った男性は、素性が解らないからしっかり用心する事が大切だと教えられた。確かにそうだよね。本名でさえ知らないんだもの。そんな人の車に乗り込むのは、危険だという事を頭に入れておかなきゃ。
「眞子先輩は仕事・子供の事以外は、割とぼんやりしている所があるので心配です。困ったことがあったら、私に何でも相談して下さい!」
チャキチャキとした理世ちゃんは、私よりもずっとしっかりしている気がする。
「ありがとう。頼りにしています、先生」
婚活アプリについては、理世ちゃんは私の頼れる先生だ。彼女は私の言葉を嬉しそうに受け止め、首を左右に揺らした。柔らかい髪がさらっと流れ、女性らしいしぐさにキュンとくる。
四歳も年下なのに、理世ちゃんは生活面では私よりもずっと色々な事を知っていて、大人びていると思う。私が勝てるのは勤務年数と仕事の速さくらいだ。しかし勤務年数が多いからと言って、羽鳥恵里菜さんのようなモンスターと称されるお母さんとやり合うのが上手い訳ではない。
ハッキリ言って理世ちゃんの方が、あしらいが上手い。
私が恵里菜さんの電話対応をする時、宥(なだ)めるのに一時間はかかってしまう。理世ちゃんは割と『はい、解りました、以後検討します』みたいに言って、そのまま相手が喋っているのに電話を切ってしまうのだ。再度電話が鳴る事はないから、不思議だ。私もその強いメンタルが欲しい。「とにかく、待ち合わせ場所が遠いのは仕方ありません。相手は先輩がどこに住んでいるのか知らない訳ですし、下手に家が何処か聞いてホイホイ車で迎えに来るよりも、先輩がお付き合いする男性はそっちの方がいい気がしてきました。いきなり家聞いたりしないから、まあ、遊んでいない普通の人じゃないでしょうか。このテのタイプ、私は無いですけどね」「ええー。じゃあ、理世ちゃんはどういう感じでお付き合いするの?」 手練れの理世ちゃんが、出会った人と付き合いを決めるのか参考に聞いてみたい!「私は飲むのが好きですから、先ずは都内のバーで一杯飲む所から始めますね。会ってから言葉遣いや清潔感があるかどうか、どういうエスコートをしてくれるか、身に着けているものはどんなものか、全部チェックします。勿論黙って」「へええ」「簡単なメールのやり取りをしたら、お奨めの店を紹介し合うんです。一杯飲みで終わるか、いっぱい(たくさん)飲みになるかは、相手次第ですよ。趣味が良かったり、エッチ目的でなければ、付き合います。因みに今の彼氏は、マッチングで半年くらい続いているんですよ」 マッチングの相手が彼氏に昇格するんだ! うう、婚活アプリ、深い! 私もそうなりたいな。 「全体的な相性はいいですね。お互い飲むのが好きなので、お酒の話とかできて楽しいです。お店巡りとかもしますし」「へえええー」 やっぱり趣味って大事よね!! ドッグフェアに行っても、I.Nさんとの温度差を感じそうな
誕生日会当日。 六月生まれのお誕生日の小倉昌磨君と、羽鳥聖也君を教卓の前に呼び、手作りの王冠を被せた。おめでとう、とお祝いをして、私がピアノを弾き、みんなでハッピーバースデーの歌を歌った。 誕生日会は滞りなく進行し、本日の給食もお誕生日用の特別給食で、みんなでわいわい楽しく頂いた。お誕生日の特別メニューは、『ポテト』や『唐揚げ』や『ハンバーグ』等、特に子供たちに人気のおかずが中心に提供される。 どうしても通常の給食は栄養バランスをメインに考えられているから、味が苦手で残してしまう子もいるけれど、特別メニューは誰も残さない。普段から頭を悩ませ、美味しくて栄養のある給食を作って下さる職員の方々には、感謝しかない。 子供たちの笑顔が見る事が出来て、私は幸せ。 そんな給食の時間を終え、一歳児や二歳児のお昼寝も終わり、通常保育の子供たちは午後二時のお迎えも終わり、大きな事件や子供たちが怪我をする事もなく、何事も無く時間が過ぎた。 しかし事件は、夕方遅くに起こった。 預かり保育の当番だったので退勤時間の午後五時まで、指定の教室で子供たちを見ていると、園に電話がかかって来たのだ。夕方は職員が減るので、電話対応できる人が少なく、長いコール後に取る事も多い。人手が少ないのだ。 職員室に居ないので、随分長いコールが鳴っているな、と思っていたら、さくら幼稚園主任の大林先生が慌てて教室内に入って来た。「清川先生っ、すみませんがお電話対応頂けますかっ。大変です!」「どうされましたか!?」 血相を抱えて飛び込んで来た大林先生に声を掛けた。御年五十歳のベテラン教員の大林先生は、この園の主任を務めていらっしゃる。 彼女が黒いおかっぱの髪を振り乱しながら私に言った。「羽鳥聖也君のお母様からお電話で、清川先生に代われと大変な剣幕で…」「羽鳥さん?」 思わず眉根を寄せ、険しい顔を作ってしまった。また、聖也君のお母さんだ。 彼女からなにを言われるのだろう。心当たりがなにもない。
「いかがされましたか?」『いかがされましたか、じゃないわよ! 一体どういうつもりかって聞いてるの!』 こういう人は要件を端的に言ってくれない。どうしたのかと聞けば、そんなこともわからないのか、と喚き散らして罵ってくる。理由も大抵理不尽な事ばかり。今回はなにかな。早くも胃が痛みだした。『私がこうやって電話をかけてきている理由もわからないなんて!』 予想どおりだ。要件を言ってくれないから、なにに対して怒っているのか理解できない。「申しわけございませんが、羽鳥さんが怒っていらっしゃる理由がわからないので、教えていただけませんか?」 『今日持ち帰ってきた王冠よ!』「王冠ですか…」 思わず呟いてしまった事に、彼女はますます逆上する。『まああっ、まだわからないの!? うちの聖也ちゃんに、わざと小さい方を掴ませて! 昌磨君のもらった方が大きかったのよ! 明らかな差別よ!!』 この人はなにを言っているのだろう。王冠は同じ型紙で同じ大きさで作っているのに、見た目だって殆ど同じなのに。「お言葉ですが羽鳥さん、昌磨君だけ大きなものを作ったとか、そんなことはありません。この王冠は私の手作りですが、同じパターンから作りました。私のモットーは子供たちには平等に接する事で、常にそうであるよう心がけています。誤解です」 私は必死に訴えた。羽鳥さんは、どうしてこんな勘違いをしてしまうのだろう。昌磨君の王冠の方が大きいなんて、そんなことはあり得ない。どうしてそう思ってしまわれるのか不思議で仕方ない。『平等!? ふざけんじゃないわよぉっ!!』 耳をつんざくような金切り声がしたので思わず受話器から耳を少し離した。それでも十分彼女の声は聞こえる。電話口から漏れる大声が職員室に響いた。『いったい、どこをどうしたら平等だなんて偉そうに言えるの!?』「あの、羽鳥さん、手作りの王冠ですから、大きさを変えたりするようなことはありません。どこがおかしかったのでしょうか?」『まだそ
へこむ気持ちにふたをして、大林先生と一緒に遊んでいる子を見た。予想どお残っている子は三崎竜(みさきりゅう)君で、私の担任するそら組の子供のひとりだった。 彼のお母さんはいつもお迎えの時間が遅い。午後七時前に迎えがあった事はほとんどない。というのも、ホテルのレストランでお仕事をされているらしく、この時間は食事時で忙しいようで、思うように帰ることができないのだとか。 お迎えが七時半を過ぎる事は日常茶飯事だが、シングルマザーだと聞いているので、あまり強く言えない。 私はクラス担任なので、勤務時間が午前八時から午後五時までと決まっている。預かり保育の子供たちを最後の七時まで持つことは時間的に園が許可できないため、私は最後まで残った事は無い。 なので聞くところによると、お母さんはいつも申し訳なさそうに迎えに来るらしい。こちらも『いつでもいいよ』と言ってあげたいけれど、夜間保育が充実しているわけでもなく、二十四時間体制の保育園でもないのだ。 さくら幼稚園は、あくまでも認定こども園 (※認定こども園とは・・・・内閣府が認可した施設で、保育園は「両親が共働きなどで日中子どもを保育できない時に預かってくれる場所」、幼稚園は「教育の補助等を含め、任意で小学校に入学するまで通う場所」となる。 認定こども園は、幼稚園と保育園が一体になった施設であるため、内閣府が4~11時間の間で保育を認めている。この間で園の定めた時間を保育可能とされている。1号・2号・3号認定の子供が通えて、保育料も収入によって変動する) であるため、それ以上の保育サポートは体制が整っていない・定められた保育時間を超過してしまうため、手を貸す事が出来ない。 それをしてしまうと、結局私達職員の肩にその負担がのしかかる。現に目の前の大林先生がそうだ。本当ならもう帰宅準備ができる筈なのに、それができない。 幼稚園勤務がブラックだと言われてしまうのは、給料が薄給であり、常に職員が不足している。更に保護者との密な関り・人間関係も様々であり、複雑である。そして勤務時間も長い。土日は休めるが交代制で、運動会や音楽会等が入れば絶対に休めない。それが、ブラックだと言われてしまう所以(ゆえん)であるのは否めない。 幼稚園はブラック企業ではないのに。子供たちを教え、一緒になって成長できるのは、なににも代
帰宅してから自分の為だけに食事を何も作る気になれず、自宅の近くのコンビニに立ち寄り、売れ残ったために隅に追いやられた小さなお弁当を買った。 売れ残り――私の中で結婚を意識する年齢はとっくに過ぎてしまったのに、恋人になってくれそうな男性の知り合いもいない。このお弁当はまるで私のようだと嘆きたくなった。 とぼとぼと重い足取りで家に帰ると、より一層徒労感に襲われた。もう疲れてしまった。なにもしたくない。 大好きなお風呂を沸かす気力も無く、ソファーの背もたれ部分に頭を乗せて唸った。お風呂は今日はお休みして、シャワーにしよう。 先に何か口にしようと思い、エコバックから取り出した売れ残りのお弁当を見る。正直あまり食欲はないけれど…残すのは忍びない。食べてあげなきゃ可哀想だ。まるで私だもん。 自分で自分を更に追い込むような事を思いながら、淋しいので見たくもないテレビを点けて冷めたお弁当を食べていると、傍に置いていたスマートフォンが鳴った。Love Seaからのメッセージ受信のお知らせ着信だ。――こんばんは、元気?(玄) たったひとこと、玄さんからのメールだった。彼からのメールはこれが初めて。相変わらずの愛想無い。でも今は却ってこれがいい。 ――いいえ、元気じゃないです。今、打ちひしがれてます(☍﹏⁰)。(M) お行儀悪いけれど、一人だからいいやと思って、お弁当を食べながら玄さんのメッセージに返信した。他愛もないやり取りで誰かと繋がっていると思うだけで、今は心細くて淋しいと思う気持ちが満たされる気がした。それにこの重く辛い気持ちを、誰でもいいから愚痴りたい。 そうなると、顔も知らないアプリで知り合った人というのは、今のこの状態に丁度いい人材だ。――そっか。大変だったんだな。同じだ。俺も打ちひしがれているトコ。(玄) あら。打ちひしがれ仲間?――どうしたのですか?(M)――色々あってさ。ちょっと誰かと話したい気分で声掛けた。(玄) それ、気が合う!――お仕事大変だったのですか?(M)――まあね。Mさんも仕事で嫌事あった?(玄)――うん。びっくりするほの嫌事が!(M)――俺と一緒(笑)(玄)――どんなことが?(M)――俺、飲食店やってるんだけど、新規オープンした店にお客が来なくて。結構ヤバイと思ってビラ配りに行ったら、酔っ払いに絡まれて暴
――ジョーダンだよ。ホントは都内。Mさんの旅費、俺に請求すんのかよ(笑)(玄)――こっちだってジョーダンですから(◍•ᴗ•◍)(M)――そっか。それはよかった。じゃ、明日また頑張ろう。嫌なヤツのことは考えるだけMさんの貴重な時間が勿体ない。(玄)――そうですね。玄さん、ありがとうございます。また、メッセージしてもいいですか?(M)――モンペに攻撃されたら、愚痴聞いてやるから連絡しておいで。俺の店に飲みに来てくれるなら大歓迎(玄)――営業うまーい(*´◒`*)(M)――まあね。また今度誘うから。じゃお休み。(玄)――はい、おやすみなさい。(M) 楽しいやり取りをして、Love Seaアプリを閉じた。 玄さんのお陰で、気分が楽になった。 他愛もないやり取りにここまで心が癒されるなんて。 アプリで知り合た人なら、どんなに仕事の愚痴を言っても素性がバレて困ることもないし便利。普段だったら絶対に出来ない。だからこういったアプリの利用が急増しているのかな。 誰でも人には言えない悩みのひとつやふたつ、時にはそれ以上、抱えているもの。 玄さんって、一体どんな人なんだろう。ぶっきらぼうな感じだと思っていたけれど、意外にユーモアある人だった。会ってお喋りしてみたいな。 I.Nさんは、犬のことを話すと嬉しそうにメッセージが返ってくるから犬好きの模様。 ゆうた君とは、最初はアウトドア中心の話に盛り上がったけれど、最近は他愛もないメッセージを送り合っている。友達にメッセージを送る気軽さがあって、見ているテレビ番組の話とか、お笑いの話とか、本当に内容もない話が多いけれど、お互いそれを楽しんでいる。 Takaさんは特に食べ歩きの話が多いかな。まあ、最近Takaさんはお仕事が忙しいみたいだから、メッセージの回数は少ない。一度に長文を送ってくれるから、返信に困るから回数は少ない方が有難いと思っている。 玄さんとは初めて長くやり取りしたけれど、楽しかった。心が疲弊している時だから、余計にそう思っただけかもしれないけれど。
それから暫くは平和に過ごした。羽鳥聖也君のお母さんからの攻撃も無く日々の業務に追われた。私は年長担当なので、そろそろ八月に開催されるお泊り保育の準備や内容をしっかりと落とし込みしなくてはいけない。大体テンプレートどおり大きな予定・行事は決まっているけれど、晴天の場合のメニュー、雨天の場合のメニュー、それぞれを考えておかなくてはいけないし、やることたくさん! それに加えて今月末からプール授業が始まる。全クラスのローテーションは組み終わっているから、園のプール準備をして、来月は七夕まつりがあるから、配布用の笹や飾り付け、景品の準備などをやる。 おまつりに出店するジュース・お茶などのドリンク販売の店、キャラクターのおめんを販売する店、くじ引きができる店、駄菓子等のお菓子を売る店、的当てやヨーヨー釣り等ができる露店、さくら幼稚園は色々な模擬店で子供たちを楽しませる。近隣住民の小学生も遊びに来てくれて(大体OBか通園の御兄弟が多いけど)お店の準備が結構大変だ。 そのため、年間で大きなイベント毎にお手伝いをしてくれるお母様を募集し、必ず一人一回はどこかのお手伝いを割り当てる。特に大変なのが七夕まつりと運動会。やってくれる人が少なくて、じゃんけんで負けたお母さんが当番に当たる。子供たちと一緒にお店を回ったり、運動会は子供たちの活躍を見たいものね。気持ちはわかる。 そして、来月の七夕まつりはお手伝いに羽鳥恵里菜さんが当番に当たっている。立候補ではなく、じゃんけんに負けたのだ。しぶしぶ仕方なくの当番なので、どんな文句を言われるかわからない。ああ。考えるだけで胃が痛い。 まあでも、今から来月の事を考えて憂鬱な気分にならなくてもいいかな。 今日はI.Nさんから、来週の日曜日にレイクタウンアウトレットの最寄り駅で午前九時に待ち合わせしよう、会えるのが楽しみ、とメッセージが入った。 もうすぐかぁ。いよいよI.Nさんと会うんだなぁ。 どんな人だろうと思っていると、もう一通メッセージが来た。I.Nさんではなさそうだ。このアイコンは…。――こんばんは、Mさん元気? ちょっと仕事合間に連絡してみたよー。最近食欲
瞬く間に時は過ぎ、一週間なんてあっという間に経ってしまった。今日はI.Nさんとの約束の日。埼玉県越谷市まで東京都足立区から出向く。うーん、やっぱり遠い! 電車に揺られ、予め調べておいた乗り換えアプリで最短移動手段を反芻しながら、約束の十分前にレイクタウンアウトレット駅改札口へ到着。 私の目印は、白のレースのフリルトップスに、黒基調の小花柄のロングスカート、黒のサンダル、ブラウンのリボンが付いた大きめのカゴバックだと伝えてある。見れば解ると思うんだけどな。 Love Seaアプリを開いて、到着しました、と送った。I.Nさんは黒の七分丈のテーラードジャケット、白のカットソーにベージュのパンツを合わせた服装で行くと言っていた。お洒落カジュアルな感じかな。どんな人なのか、待ち合わせの時間が刻一刻と迫る度に、ドキドキと胸が高鳴る。 初めて会う人だけれど、自撮りの写真通り素敵な人なのかな? 犬好きみたいだけれど、会話、ちゃんとついていけるかな? 幼稚園ではパンツルックが多いからあまりお洒落できないし、初対面の人と会うのだからと、今日は張り切ってタンスから洋服引っ張り出して、お洒落したけれど、変に思われないかな? 緊張しながら待つ事十五分。「あの、すみません」 きた――! 「この駅に行きたいのですが、乗り換えが解らなくて、教えて頂いてもいいですか?」 声を掛けて来たのは、初老の男性だった。まさかこの人がI.Nさん――なワケないか。乗り換え方法聞いているもんね。「はい」 見せられた地図を見て、乗り換えの為に降りる駅を教えると、どうもありがとう、と会釈された。 なんか拍子抜け。 そしてまた緊張感を持って待つ。待つ。待つ。 三十分待った。 でも、彼は現れない。 四十分。 五十分。 一時間…。 その間にLove Seaアプリで何度かメッセージを送ったけれど、返事がない。なにかあったのかな? 午前十時を過ぎたので、I.Nさん
あおいchanというのも気が引けるので、あおいさんと呼ぶことにしている。彼女に返信していると、Love Seaの方が着信を告げた。――元気?(玄) 一言、玄さんからだった。相変わらず愛想無い。――はい、元気ですᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ 玄さんはお仕事中?(M)――まあね。店が暇でしょーがない。(玄)――もうすぐ仕事で大きなイベントがあるので、それが終わったら飲みに行きますよ。再来週の週末にでも、玄さんのお店行きたいです( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )(M)――いや、俺の店はもういいよ(笑)多分この店もうヤバイ。だから違うとこ行こう。(玄)――Σ(•̀ω•́ノ)ノエッ だめですよ! ちゃんと店番しないと(ˉ ˘ ˉ; )(M)――店番(笑)ジャイ〇ンかよ(笑)(玄)――ジャイ〇ンが店番していたら、人気店になりますね!(M)――面白いこと言うなぁ。店が繁盛するなら、ジャイ〇ン雇いたいよ(笑)(玄) 玄さんって愛想無いと思っていたけれど、実はそんな事なくて短い一言が面白いなぁ。それにしても、ネコ型ロボットの国民的人気アニメなんか見ているのかな。園児の話に合わせるために、私も見ているけれど。 ホント、玄さんってどんな人なんだろう。 短いやり取りばっかりだけれど、なんとなく話も合うし、いい人なのかなーって思っちゃう。こういうのでコロっと騙されてしまうんだろうな、私みたいな単純人間は。――最近、モンペどう? 嫌がらせされてない?(玄) あ、気にしてくれているんだ。嬉しいな。 ――心配してくれてありがとうございます⸜(๑’ᵕ’๑)⸝ 今の所大丈夫です。次の週末が怖いですが( ´•д•`; )(M)――イベントでモンペとバトルするの?(玄)――違います! 実は・・・・(M) アプリの自分のプロフィールに『幼稚園教員をやっている』と既に書いているので、来週七夕まつりのイベントがあることや、当番に羽鳥さんが当たっていること、ひと悶
翌日。Takaさんと食事へ行った結果を理世ちゃんに報告した。「無いですね」 一言ズバっと頂きました。「ありえません。画像詐称も酷いし、性格も最悪なんて。まさかの大はずれでしたね」 酷い言い草だとは思うけれど、同感だった。アプリで通じた相手でなければ、一緒に食事へ行こうという気になれない人だったから。「ブロックしちゃいましょう」 理世ちゃんは私のスマートフォンをタタタと操作し、Takaさんをあっと言う間にブロックしてしまった。躊躇は一切せず。 いいのかな…。「とりあえず残り二人いますよね。頑張ってみてダメだったら次行きましょう。私の知り合いを紹介しますから!」「ありがとう。このままアプリ続けて大丈夫かな…」「婚活アプリあるあるなので大丈夫です。本名は伝えてないでしょ? ブロックしたって先輩が誰であるとか、わかりませんから。こちらに落ち度は一切ありません。宝くじ買って、大はずれしてガッカリしちゃったようなものです。気を取り直して行きましょう!」「理世ちゃんが居てくれるから安心だよ。ほんとに助かる」「とにかく、残りのゆうたさんと玄さんが、アタリかもしれませんから」 理世ちゃんの言う通り、ゆうた君はアタリかもしれない。玄さんは正直まだよくわからない人だけれど、他愛もないやり取りは交わすような仲になった。愚痴友みたいな感じ? 今度時間が合えば、飲みに行こうという約束をしてそのままだ。 今日は特に問題も無く一日が終了した。無事に一日を終えられる喜び――この平和が何より嬉しいと感じる今、私の心は重症だと思う。本気で今年度限りで退職しようかなと思ってしまう。 聖也君は今年卒園だから、今季だけ耐えればいいかもしれないけれど、今までの自信もプライドもぶち壊される勢いでの説教は、自分の中で消化しきれなくて心の中に沈下している。それを引きずりながら来年も仕事と思うと、不安に駆られるし憂鬱になる。うまくやっていける自信がなくなってしまった。 聖也君に罪はないから、今まで通り分け隔てなく接するつもりだけれど。 羽鳥さんが怖いからと言って聖也君を贔屓にするのは違うと思うし、私は絶対そんなことはしたくない。 久々に早く帰宅できたのでゆっくりお風呂に入ろうと思い、張り切って掃除をして湯を沸かした。 沸いたばかりの湯船にとっておきの薬剤を投入した。
「こんばんは、羽鳥さん」 私に挨拶をしてくれた彼は、羽鳥聖也君のお父さんだ。コックの恰好をしてマスクを着けていたが、聖也君によく似た大きな瞳が特徴的なので、すぐにわかった。 そう言えば羽鳥恵里菜さんが『うちの夫は蓮見リゾートの料理長をしている』と自慢していたっけ。「こちらにお勤めだったのですね」「はい。以前は別の店舗勤務でしたが、このホテルが新規オープンしたので呼ばれたのです。いい食材をふんだんに使っているので贅沢なバイキングですから、先生もご堪能いただけると思います。デザートも美味しいですよ」「はい、ありがとうございます」 こんなところで知り合いにあうなんて。しかもTakaさんの連れと思われるの嫌だなぁ。全部で四組しかいないから、絶対見られてるよね。「聖也がいつも清川先生を褒めていますよ。幼稚園も楽しいと言っています。これからもよろしくお願いします」「はい、こちらこそ」「清川先生にお礼が言いたくて、お食事中につい声を掛けてしまいました。申し訳ございません。ごゆっくりどうぞ」 モンペと揶揄される彼女の伴侶とは思えないくらい丁寧な人だ。レストラン勤務の料理長ともなれば、忙しいのだろう。昨今の幼稚園参観や行事参加は、夫婦揃って来ることが増えている。しかし聖也君は殆どが母親の恵里菜さんだけの参加だった。 稀に夫婦で参加する時は借りてきた猫のように大人しいことから、恵里菜さんの本性を彼が知らない可能性がある。 今度の七夕まつりは夫婦揃って参加して欲しいな。恵里菜さん、きっと大人しいだろうから。「声をかけてくださってありがとうございます。お仕事頑張って下さい」 当たり障りない言葉をチョイスし、会釈してデザートコーナーへ向かった。料理はもういいや。食べるのしんどい。 専用のコーナーには色とりどりのデザートが並んでいた。どれも生の果物を使っていて、贅沢なスイーツに仕上げたものがずらりとこの空間を彩どっている。まるで宝石のよう。 撮影可能と書いてあったので、折角だからとスマートフォンで写真に収めた。どの
Takaさんはプロフィール画像と全然違う人だった。 真面目で堅物そうなイメージは同じだけれど、体型の細さが全然違う。確かに彼の顔だけれども、プロフィール画像の三倍くらいは横幅がある。巨漢と言ってもいい。 髪の毛もオイルを塗りたくっているのか、てかてかしている。もしかしたら汗や脂なのかもしれない。 全体的によく見せるために修正した、とかそういうレベルではない詐称だった。「君がMさんだよね? うわあ、想像よりずっと綺麗! 素敵な女性だ!!」「あ、ありがとうございます」 熱量凄いから本人である事は間違いない。Takaさんだ。「さあ行こう!」 肩を抱かれる勢いだったけれど、流石に初対面でそれは遠慮したのか、彼は私の一歩先を歩き出した。エスコートをしてくれているのだと思う。 今日のお店は都内に新しくできたばかりの蓮見(はすみ)リゾートホテル内にあるレストランのディナーバイキング。場所がそんなところだから、初期設定の値段は結構高額だった。 一泊十万円以上するリゾートホテルの新たな試みとして、バイキングが発足されたばかりだ。今までの蓮見リゾートはバイキング等は一切やらなかったらしいから、ちょっとした話題になった。そんなディナーだから、一人一万五千円も値段が付いている。オープン記念に近隣で配られていたチラシ持参で三千円引きにして貰えたが、それでも一人一万二千円。飲み物は別途料金になるだろう。これは高すぎる値段設定。庶民の私にはおいそれと行けない場所だ。 滅多に立ち入る事の出来ないホテルの上層階で、美しい夜景を見ながら頂く食事。全ての席がゆったりとして、窓際に位置されている。この素敵な贅沢空間に、お客様は私とTakaさん以外、他に三組ほどしか入っていなかった。盛況しているようには全く見えない。それで、全然お客の入っていない穴場だと言われてしまったのだろう。別の意味で話題を呼んでいるらしいけど。 バイキングなので好きなものを取りに行き、改めてTakaさんと対面した。サラダとブランド牛肉、生サーモン、アクアパッツァなどを白いお皿に少しずつ取ったものを置いた。彼は専用の白いお皿にめいっぱい料理を乗せ
「それより先輩、婚活アプリでやり取りしている他の男性はどうですか? やりとり続いていますか?」「うん、。Takaさんは今度ご飯食べにいこうって約束して、来月七夕まつりが終わったら食事をしようと思っているの。玄さんは飲みに誘ってくれたから、場所を聞いて飲みに行こうかと」「へええ…!」理世ちゃんは嬉しそうだ。「眞子先輩がそんなに積極的に同時進行できるなんて、びっくりしました!」「あ、適度にやり取りしているよ。他愛もない話が多いけど。食べ歩き好きだからっていプロフィール見てくれているから、ご飯行こうってTakaさんが誘ってくれて。玄さんは丁度羽鳥さんに酷いお説教されたときに話聞いてくれたし、悪い人ばっかりじゃないのかな、普段繋がっていない分、逆に本音が言えたりするのかなって思ってる」「I.Nは論外ですけど、素性が解らないっていうのはそういう意味でも今の社会には必要なのかもしれませんね」「そうそう。理世ちゃんのお陰でI.Nさんの動向が知れたし、気を付けなきゃって改めて思った。本名はもう絶対に言わないし、相手の事をもっとちゃんと知ってから、自己紹介するようにする」「先輩…眩しいくらい純粋ですね。本当にI.Nに騙されなくて良かったです!」「そうだね。今は却ってすっぽかされて良かったなって思う。正直、犬のイベントなんか行ってもよくわからなかっただろうし、無理して相手に合わせるのはもう止める。これもいい経験だと思って次に生かすよ。理世ちゃんがいっぱいアドバイスくれるから助かってる。ありがとう」 このしっかり者の後輩のお陰で、I.Nさんのことを引きずらなくてすむ。 あのままだと、私が好みじゃなかったからだろう、とか、どこかで嫌な思いをさせてしまったんだ、とか、そういう風に自己否定につながる考えをしてしまっただろうから。「とにかく、残りの三人頑張って攻略しましょう!」「そんな…ゲームじゃないんだから」 愉快な後輩の言い方よ。「恋愛はゲームみたいなものですよ。上手くクリアして、晴れてお付き合いできるのですから」 成程、一理ある。「
「え――っ、ありえなくないですか!?」 月曜日の朝、園に着いてすぐ開口一発。理世ちゃんの文句から始まった。 それは、彼女に日曜日のこと――つまり、I.Nさんが待ち合わせに来なくてゆうた君とデートすることになったと伝えたからだ。「まさかのブッチですか。信じられないっ」 理世ちゃんがめちゃくちゃ憤慨している。「眞子先輩。ちょっとその男のプロフ、見せて頂いてもいいですか!?」「これなんだけど」 ものすごい剣幕なので、私は断れずにLove Seaアプリを開いて理世ちゃんに渡した。「あ――っ、やっぱり!」「どうしたの?」「I.Nさん、アプリ退会してます。急なブッチしたりする人ってワケアリが多いんですよ」「ワケアリ?」「ええ。例えば、奥さんや彼女がいるのに出会い目的で独身と偽ってアプリを利用して、それが伴侶にバレるパターン。それはもう、強制終了ですよ」「きょ、強制終了…」 それは、離婚や別れが待っているということね。「退会までやっているので、今回の場合は違うと思いますが、こういう人もいます。待ち合わせした女性が好みじゃ無かったら、平気でブッチしちゃうんです。あ、眞子先輩は綺麗だから、絶対大丈夫ですけど!」「そっかぁ。やっぱりアプリで素性の知らない人っていうのは、怖いんだね」 胆に銘じておこう。「すぐ退会する人って、意外に自分のSNSの方で連絡ができるようにしているから、多分連絡先突き止められると思うんですよ。ちょっと待っていて下さいね」 理世ちゃんは自分のスマートフォンを取り出し、スゴイ勢いで画面を打ち始めた。トトトト、タタタタ、と画面を高速タップする様子がすごい。一体何をしているのだろうかと、彼女が見せる百面相を近くで見守った。「先輩、I.Nさんってこの人ですか?」 やがてなにか見つけたらしく、画面を差し出して来た。「あっ! そう! この人
彼は私の容姿を知らないけれど、私は彼の容姿を知っている。ああやって手を振っていれば、きっと私が見つけてくれると思っての事だろう。「ゆうた君!」 私は彼に駆け寄り、挨拶した。「Mです、初めまして。今日は誘ってくれてありがとう」「えっ。君が、Mちゃん?」 ゆうた君が目を丸くした。「うん、そうだよ」 初対面の人と会ってお話するなんて生まれて初めての事だから、ドキドキして目線を少し伏せた。気恥ずかしくてまともに顔を見ることができない。「Mちゃん、すげー綺麗でびっくりした! ラッキーって言っていいのかな?」 笑いながらそう言ってくれたので、思わず顔を上げて見ると満面の笑みのゆうた君がいた。 プロフィール画像そのままだ。ふわふわと柔らかそうな手触りの髪の毛、くりっと大きな目、人懐っこそうな雰囲気、そのまま。偽りなく登録し、嘘をつかない正直な人なのだと思った。「じゃ、行こう!」 先ずは腹ごしらえだよね、と、連れて来てくれたのは、何とスカイツリーの近くにあるムーミンカフェだ!「可愛いー♡」 思わずハートマークを語尾に付けてしまう程、店内はムーミンで溢れていた。 入る前からお洒落な店舗外観、溢れるムーミングッズ、壁一面に描かれたムーミンの仲間たち! レイクタウンアウトレット駅でI.Nさんと待ち合わせていた時とは雲泥の差のテンションになり、笑顔が弾けた。「急いで予約したんだけど、早い時間だから空いててすんなり入れて良かったよ」 わざわざ予約してくれたんだ、と急な約束だったのに、ちゃんとエスコートしてくれようとする気持ちが嬉しかった。 現在午前十一時を少し過ぎた所だ。一時間前の悲しい気持ちから一転、ゆうた君のお陰で楽しい気持ちになった。ホント、彼に感謝!「Mちゃん何食べる?」「――あの、眞子です。Mじゃなくて、清川眞子と言います」 名前を知って欲しくてつい名乗ってしまった。…いいよね。ゆうた君、いい人だもん。「そ
瞬く間に時は過ぎ、一週間なんてあっという間に経ってしまった。今日はI.Nさんとの約束の日。埼玉県越谷市まで東京都足立区から出向く。うーん、やっぱり遠い! 電車に揺られ、予め調べておいた乗り換えアプリで最短移動手段を反芻しながら、約束の十分前にレイクタウンアウトレット駅改札口へ到着。 私の目印は、白のレースのフリルトップスに、黒基調の小花柄のロングスカート、黒のサンダル、ブラウンのリボンが付いた大きめのカゴバックだと伝えてある。見れば解ると思うんだけどな。 Love Seaアプリを開いて、到着しました、と送った。I.Nさんは黒の七分丈のテーラードジャケット、白のカットソーにベージュのパンツを合わせた服装で行くと言っていた。お洒落カジュアルな感じかな。どんな人なのか、待ち合わせの時間が刻一刻と迫る度に、ドキドキと胸が高鳴る。 初めて会う人だけれど、自撮りの写真通り素敵な人なのかな? 犬好きみたいだけれど、会話、ちゃんとついていけるかな? 幼稚園ではパンツルックが多いからあまりお洒落できないし、初対面の人と会うのだからと、今日は張り切ってタンスから洋服引っ張り出して、お洒落したけれど、変に思われないかな? 緊張しながら待つ事十五分。「あの、すみません」 きた――! 「この駅に行きたいのですが、乗り換えが解らなくて、教えて頂いてもいいですか?」 声を掛けて来たのは、初老の男性だった。まさかこの人がI.Nさん――なワケないか。乗り換え方法聞いているもんね。「はい」 見せられた地図を見て、乗り換えの為に降りる駅を教えると、どうもありがとう、と会釈された。 なんか拍子抜け。 そしてまた緊張感を持って待つ。待つ。待つ。 三十分待った。 でも、彼は現れない。 四十分。 五十分。 一時間…。 その間にLove Seaアプリで何度かメッセージを送ったけれど、返事がない。なにかあったのかな? 午前十時を過ぎたので、I.Nさん
それから暫くは平和に過ごした。羽鳥聖也君のお母さんからの攻撃も無く日々の業務に追われた。私は年長担当なので、そろそろ八月に開催されるお泊り保育の準備や内容をしっかりと落とし込みしなくてはいけない。大体テンプレートどおり大きな予定・行事は決まっているけれど、晴天の場合のメニュー、雨天の場合のメニュー、それぞれを考えておかなくてはいけないし、やることたくさん! それに加えて今月末からプール授業が始まる。全クラスのローテーションは組み終わっているから、園のプール準備をして、来月は七夕まつりがあるから、配布用の笹や飾り付け、景品の準備などをやる。 おまつりに出店するジュース・お茶などのドリンク販売の店、キャラクターのおめんを販売する店、くじ引きができる店、駄菓子等のお菓子を売る店、的当てやヨーヨー釣り等ができる露店、さくら幼稚園は色々な模擬店で子供たちを楽しませる。近隣住民の小学生も遊びに来てくれて(大体OBか通園の御兄弟が多いけど)お店の準備が結構大変だ。 そのため、年間で大きなイベント毎にお手伝いをしてくれるお母様を募集し、必ず一人一回はどこかのお手伝いを割り当てる。特に大変なのが七夕まつりと運動会。やってくれる人が少なくて、じゃんけんで負けたお母さんが当番に当たる。子供たちと一緒にお店を回ったり、運動会は子供たちの活躍を見たいものね。気持ちはわかる。 そして、来月の七夕まつりはお手伝いに羽鳥恵里菜さんが当番に当たっている。立候補ではなく、じゃんけんに負けたのだ。しぶしぶ仕方なくの当番なので、どんな文句を言われるかわからない。ああ。考えるだけで胃が痛い。 まあでも、今から来月の事を考えて憂鬱な気分にならなくてもいいかな。 今日はI.Nさんから、来週の日曜日にレイクタウンアウトレットの最寄り駅で午前九時に待ち合わせしよう、会えるのが楽しみ、とメッセージが入った。 もうすぐかぁ。いよいよI.Nさんと会うんだなぁ。 どんな人だろうと思っていると、もう一通メッセージが来た。I.Nさんではなさそうだ。このアイコンは…。――こんばんは、Mさん元気? ちょっと仕事合間に連絡してみたよー。最近食欲